Fine feathers make fine birds.

 ミクトランパには洗濯をする概念が存在しない――ということもないが、平然と同じ衣服を着用したとしてもあまり困らない。
 ここに来る以前のデイビットがいたのは、異聞帯ロストベルトのミクトランであり、そこには衣服の汚れという概念は勿論あったが、現代のように洗濯機が完備された清潔な環境ではなかった。そもそもフィールドワークに出て毎日清潔な服を着るということは有り得ないし、礼装というものは、生活上生じる汚れが付着しないようなモノ――概念的に――である。これは洗濯の必要が一切ないという意味ではないし、着心地が常に良いという意味でもないし、勿論可能であれば毎日洗うべきだとは思うという意味ではある。
 デイビットがさほど自分の部屋のクローゼットに興味を示さなかったのは、あまり強い必要性がある訳ではない為である。殆どテスカトリポカが使ってるんだろうと思っていたのだ。デイビットはそもそもさほど衣服を持つ方ではなく、似た服をいつも着ているというのが日常的であった。変えてもいいが、あまり気にならないので、手間を考えて同じ服を数着買っておくというスタイルだ。礼装なんかは変える必要すらないので、正直無駄なことを考える必要がなくて重宝している。
 ミクトランパに来てからは、風呂上りに脱いだ服は綺麗になって・・・・・・出てきたし、洗濯のことなんて考えたのは、よく晴れた日にデイビットが何気なく「今日は布団を干すのにいい日和だな」と言ったら、テスカトリポカが「ソイツはいいアイデアだ」などと言って、2人で洗濯物干しなんてものをした時くらいのことだ。何だかただの人らしくて楽しいな、ということをデイビットはほんの少し思った。

「何故この服がここにあるんだ?」

 その日デイビットがクローゼットを開けたのは、いつものコートが珍しく見当たらず、もしかするとクローゼットに掛かっているのではないか、と考えただけのことである。普段開かないから、どうなっているのか考えたこともない。
 そこに平然と見たことのある服が掛かっていたので、デイビットは取り出して首を傾げたのだ。白の長い外套――マントじみた、に、正装のようなベストの衣装、何故か白いネクタイ。一度見て、これはヴォーダイムの服では? とデイビットは考えた。それは、チームメイトのキリシュタリア・ヴォーダイムにはとても良く似合う装束だった。

「オマエが昔撮影会した時のだろう?」
「それは知っている」

 何と言ったか、正直非常に無駄な記憶なのでデイビットはよく覚えていない。正装の写真を撮る必要があった、ようである。それともクリプターの親睦を深める為だったかも知れない。そのどちらも違ったかも知れない。全くもってその理由はデイビットの5分の記憶にはないことである。誠に、残念ながら。残念なことに、憶えておく必要性に欠く理由であったのだろう。
 それで、今デイビットが手にしている何だか装飾の多い重たい服を着て、王座のような椅子に座り、写真を撮った。

「オレが聞いているのは、どうしてこの服がここにあるのかということだ。だって、アレは」
「そんなもの、オレが用意したに決まっているだろう、デイビット。ここをどこだと心得る?」
「おまえの管理下にある場所だということは重々承知している」
「オマエが撮影用の服を貰って帰ってきた事実はないということならオレも知っている」
「ならば何故」
「オマエは一度ミクトランで衣装合わせをしただろう。何だこの服は、と言っていたが」
「それは、記憶にない事態だとは言わないが」
「そうだろうとも。仔細を忘れているのなら教えてやろう。オマエがクリプターの会議から戻ってきて、やたら渋い顔をしているからオレが聞き出したんだ。重い服が動きにくいと嫌そうに言ってな。それでも、キリシュタリア・ヴォーダイムの言葉だから従うと言った」
「ああ、ヴォーダイムの提案だったのか。まぁ、ヤツもそういうところはあるからな」

 旧友の顔を思い浮かべながらデイビットは呟いた。
 あの時、ごてごてとした衣装を持ち帰ってきたデイビットにテスカトリポカはからからと笑い、「着てみろ、衣装合わせがいるだろう?」と言った。デイビットは、別にその時、神に意見をすることもなく服に袖を通した。

『ああ、イイぞ。イケてるな、デイビット。馬子にも衣裳だ』

 そうテスカトリポカは評した。

「言ったな、確かに」

 続けてデイビットはもう一つ、衣装に関して記憶していた友人との会話を思い起こす。

『アラ、いいじゃない、デイビット。似合ってるわよ、イケメン王子って感じ』
『そうか? オレのサーヴァントは『馬子にも衣裳だ』と言っていたが』
『ハァ? 私の爆イケデイビットによくもそんなこと言えたわねぇ。アンタのサーヴァント連れてきなさいよ、説教してやるわ』

 それをデイビットは当時必要なことだと思わなかったので、テスカトリポカに話さなかった。
 そして今、思い出したので、何気なくテスカトリポカに話すと、テスカトリポカは眉間に皺を寄せた。

「……オマエはあの男のではないが?」
「そういう議論はしていない」
「重要だ。そういうことは言っておかないと、つけあがるヤツがいる」
「誰がどうつけあがるんだ」

 理解できない、とデイビットは肩を上げた。それは確かに、友人ペペロンチーノがそういう言い方をする謂われはデイビットには特にないが、彼にも別段の他意はないだろう。むしろ、ウチの、というような言い方はクリプターのことを一体の仲間だと捉える彼らしい言い方であるとデイビットは考える。
 テスカトリポカは、連れてこいと言われたからオレをインドに連れて行ったのか、などと言ったが、デイビットはその発言を明確に否定した。いや付いてきたがったのはおまえだ、と。テスカトリポカは、以前までのデイビットの記憶能力が弱いことを突いて、平然と偽りを述べることがある、とデイビットは思っている。検証のしようがないことも多いが。

「確かにそういうことも言ったが。別にオマエ自身の良し悪しをオレは言ったワケじゃないぞ、デイビット」
「何も言ってないが」
「いつもオマエの着ているその野暮ったい服を脱いだ方がいいと言いたかったんだよ。素材はいいのに死んでいたからな」
「だから聞いてない。一々人の服に口出しするな。オレが言いたいのは、おまえはここではどうせ気軽にオレの服を変えられる癖にどうしてクローゼットに……Wow!」

 デイビットが気が付くと服装が変えられていた。「そうか久々に着替えがしたくなったか」などとテスカトリポカは言って笑っている。
 テスカトリポカは勝手が多い神ではあるが、人間の感情に関しては会話を通してよく理解している。つまりそういう意図でデイビットが話しているのではないということを知った上で、こういうことをしでかしてくるのである。そしてデイビットもそれをよく知っているので、「急に変えると驚くからやめてくれ」とだけ、いつものようにコメントをした。これは、言っておけば、いつかは斟酌してもらえるようになる可能性があると考えている為だ。

「よく似合っているな」

 デイビットの後ろ髪を長い指で触りながらテスカトリポカは言った。

「『馬子にも衣裳Fine feathers make fine birds.』?」
「根に持っているのか? 軽い気持ちで揶揄したのはオレが悪かった。適切な発言でなかったことは謝ろう。やはりこういう風にやるのが良かったんだろう? そういうことはちゃんとオレもやってやれる」

 デイビットは急に壁際に追い詰められたと思うと、テスカトリポカは片手を壁に突いて顔をぐっと近づけた。

「本当によく似合っている。こんなオマエは、オレ以外の誰にも見せたくないな、デイビット」

 デイビットが何も返さずにじぃっと青い目を見ていると「オイオイ、反応が薄すぎるだろうが」とテスカトリポカは眉間に皺を寄せた。

「どう返せと?」
「こういうのはときめくものだろう?」
「今更、何に?」

 オマエな、とテスカトリポカはそのままの体勢で言った。

「無感情なのか?」
「よく言われる」
「ああそうだったな。忘れていたが。いやそうではなく。もう少しあるだろう? 恋人に、こういうことを言われて」
「だから何が」
「……オマエも変わらんな」
「一朝一夕で何か変わることじゃない。恋人でも、そうでなくとも。大体、心にもないことを言わなくていい」
「そこからかよ」

 デイビットは瞬きをした。青い瞳の、デイビットの恋人の神様は、デイビットの頬に唇で触れた。そうして彼は耳元で「オマエはあの男の、、、、じゃないだろう」と囁いた。

「それは重要なことだ、デイビット。あの日オレが何と言ったにしても――今のは本心だ。ちゃんと理解しておいてもらわなくてはオレも困る」

 デイビットはその瞬間に、先ほどまでテスカトリポカが言っていたことの意味が分かった。心臓が微かに熱を帯びたのを感じた。

「――分かった。けど」
Butけど?」
「今のオレがどこかでこれを見せる機会があるとは思えないだろう? オレは、おまえのものなんだし」
「身も心も?」
「違ったか?」
「いいや、正解だ。よく分かってるじゃないか、デイビット。それでいい。オマエはオレのモノだ」


AGFのアクスタのデイビットくんイケメンだ〜〜〜って思ってパパッと書きました。ワンライくらいのノリで。
デイビットくんはイケメン……テスカトリポカも似合ってんな〜って思ってるよ。

テ「しかしこの写真、オマエは何だって足を、立てているんだ? 普段そんな行儀悪くせんだろう」
デ「両脚を地面に付けるなと言われたんだ。動きにくい服だから反応が遅れそうだし、何かあっても咄嗟に動けるようにと思って」
テ「何で眉間に皺寄せてんだ?」
デ「キメ顔にしろと言われたが、顔の作り方がよく分からない」
テ「リラックスして笑ってりゃいいだろ。ん?」
デ「頬を引っ張ったら眉間を解さなくていいよ、テスカ。フフッ」
テ(ここだとコイツもリラックスしてイイ表情を見せるんだがな。ま、これも他のに見せたい顔ではないからあのままでいいか)

みんな足上げてるから両脚地面に付けると爆発でもすんのかなって思った。
デイビットくん自分の記憶と相違がハッキリ出たら嫌だなとか思って写真苦手とかかも知れない。ミクトランパに来てからは写真撮ることが増えて、しかも少しニコッとしてるとかかも知れない。

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