――魔力供給。
それはサーヴァントが現界する為に必要な魔力をマスターが供給することを意味する。マスターによって喚び出されたサーヴァントにとって、マスターの魔力は、この世界で活動する為の生命線。マスターからの供給なしに存在することも出来なければ、スキルの行使や宝具の使用にも影響が出る。故にマスターとなるべき者は、魔力が豊富であることが望まれる。
テスカトリポカの、この異聞帯でのマスターであるデイビットは、自らを人外であるかのように言い、実際、外宇宙的なモノが彼の背後では蠢いているようではあるが、マスターとして、魔力は十分に保有している者であった。それは、神霊テスカトリポカを維持するのに不足するものではない。
だが。
「魔力が不足している? どうして、経路はちゃんと繋がっている筈だ。まさか……変なモノを食べたからか?」
デイビットの友人であるペペロンチーノに会う為に向かったインドの異聞帯で、あちらの敵性生物を食らったことで、テスカトリポカの機能はかなりダウンさせられていた。余所で水を飲むと腹を下すだろう、とデイビットは言うが、感触はかなりそれに近い。
ミスったな。まぁ神とてミスることくらいはある。
デイビットはそんな己のサーヴァントに、やや心配そうな瞳を向けていた。珍しく。
「だって計画外のことだからな。オレはおまえを連れて行くつもりもなかったんだ。連れて行くと向こうで面倒を起こすとまでは想定していなかったが」
デイビットはため息を吐く。言ってくれるなデイビット、とテスカトリポカは思った。
通常、マスターとサーヴァントの間に経路が繋がっていれば、マスターからの魔力はそこから得られる。それ以上に必要とすることはない。精々、令呪を切る時くらいのことだろう。必要に応じて魔力を吸い上げるようなことも確かにあるが。
外部的な依代を利用しているテスカトリポカと、人間らしからぬデイビットとの間にも経路は備わっているが、余計なモノを挟みこんでいる所為か、時折、反応が弱いように思う。今だって、強引に魔力を吸い上げれば治癒できるだろうが――あまり上手く調節できていない。
そういう時にテスカトリポカは、とりあえず身体接触を行うことでカヴァーが出来ると学んでいた。手を握ると、人のように言うならば、血の巡りが良くなったかのように身体が励起する。傍に置いておくだけでも調子は良かった。互いにやるべきことが多いので、あまり並んで立っているばかりでもいられないが、定期的に調子を確認するようにデイビットに接触するようにしていた。
「でもペペロンチーノの助けにはなったようで良かったかも知れない」
「そうだろう?」
「だがそれで調子を崩したのか?」
「一時的な機能不全は解消された。が、」
「――魔力が不足していると?」
「まぁ、アレを食らったことで元々不安定だった経路にも影響が出たのだろう。魔力が上手く流れてこない」
デイビットは肩を上げた。
「それでわざわざオレのところまで来たのか」
「すぐに治るだろうと思っていたんだがね」
「治らなかったのか。分かったよ。魔力の供給、或いは経路の修復というところか? 何をすればいい?」
「セックスだな」
「……は?」
「セックスだ」
丸太の上で隣に座っているデイビットの身体がちょっと引けた。
「どういう話なんだ」
「身体的接触による魔力供給の効率アップについては話しているだろう。指先よりも密着した方がより良いという話だ。快楽を共有する方が手っ取り早い」
「待て。オレは、手を繋ぐと供給効率が良いということもまだ実感していない」
「オマエの方に実感はなくとも、オレにはあるんだよ。デイビット」
テスカトリポカが手を掴むと、デイビットは少し困ったような表情を見せた。最初に出会った頃には、眉一つ動かさないのが通常であるような、表情の変わらない男であったと思うが――、もう人間の感覚で言うと半年くらいは経っているからだろうか、デイビットは確実にこちらに気を許している。マスターとサーヴァントというだけではない。同じ目標に向かって進む同志、いや、相棒だと感じてくれているだろう。
ならばこれは押し通せるな、とテスカトリポカは思っていた。
別にそういうことを特にしたいということはないが――多分――、抵抗されるのを組み敷くのでも別にいいが――デイビットの抵抗となると生死を賭けた争いになりそうではある――、経路の調整に多分手っ取り早いだろうことは事実なのだ。別にしたことがないので確実ではないが、サーヴァントは己の構造体としての存在を理解しているものであるし、そもそもテスカトリポカは神だ。手ずから作った身体が必要とすることも分かる。
人間の身体である以上、欲求も溜まるものであるし、デイビットの方もついでに発散できて一挙両得というものだ。
「本当に、それがベストなんだな? なら、分かった。おまえの言うとおりにしよう」
そして効率厨のデイビットは、そうした方が早いと言えば、それに頷くのである。
「いい子だな、デイビット」
「それはやめろ」
頭を撫でてやろうとすると、デイビットはサッとそれを避けた。
「デイビット、今日の五分は?」
「……まさか、そんなことを記憶しておけと?」
「オイオイ、抱いた男がそのことを忘れるのは流石に気分が悪いだろうが」
デイビットは眉間に皺を寄せた。
「ま、それに、オマエの記憶が忘れても、身体の方は憶えているものだ。それでもいいなら、構わんがね」
デイビットは黙って、紫水晶のような瞳をこちらに向けていた。
「……考えておく」
テスカトリポカは口角を上げた。
「それで?」
「コートを脱げ」
「ここでヤるのか?」
「ん? あぁ、セックスの為に家まで戻るか?」
デイビットはまた、眉間に皺を寄せた。これからセックスするというのに、もう少し可愛げのある表情に変わらないものかと、掴んでいた手を撫でると、急な行動にデイビットの肩が軽く跳ねた。
「……いや、どちらでもいい。ヤるなら早く済ませよう。明日も探索の続きがしたい」
「もう明日の話か、デイビット」
何だかそれは面白くないな、とテスカトリポカは思った。顔を赤らめて恥じらって欲しいという要望もないし、淡々としていても構わないことではあるが、そんなに神とのセックスをあっさり終わらせる気でいるのは気に障るというものだ。
テスカトリポカが急に唇を奪うと、デイビットは目を白黒させた。どうやらそういうことをされるとは予想していなかったらしい。これは成功だな、とテスカトリポカは考える。
「んッ……ッ、テスカ……」
ねっとりとした粘性の音が響く。深い密林の中で、不似合いな淫靡な音が鼓膜を叩く。唇を食んでいる内に、デイビットの耳が紅くなってきた。ちゃんと興奮しているな、と確認して撫でると、びくりと肩が震えた。
デイビットほどの年齢であれば、セックスくらい手近な相手としていてもおかしくはないが、普通の人ではないデイビットは何も知らず、無垢だった。そういうのを染め上げていくのも悪くはない。デイビットの記憶が幾ら忘れようとも、新しく受けた快楽というものを、デイビットの身体は忘れることが出来るだろうか。
*
「ッ、あっ……や、入んな……、ん……ッ!」
「案ずるなよ、デイビット。こちらに任せておけば、すぐに終わる」
「アンッ、ダメ……!」
木に手を突いて、下半身を曝け出しているデイビットは、羞恥で頬を赤らめて、瞳を潤ませている。早く済ませると言われたので、下だけ下げさせて、後ろに強引に指を突っ込んで慣らした。神様の指で気持ち良くなってきたデイビットの身体は徐々に弛緩して、窮屈ではありそうだが、挿入に至れる程度には緩くなったなと思い、テスカトリポカは己の性器をそこに宛がった。
デイビットは抵抗を見せたが、それは、痛みから来る反射。人間の防御的反応でしかない。埋め込まれていく内に吐息は甘くなり、鼻に抜ける声は単なる嬌声へと変わる。
「アッ、テスカ、アンッ!」
「イイだろう、デイビット。こういうのが快楽というものだ」
「アンッ、アンッ……、ッ、ダメ……」
教え込めばすぐにデイビットは快楽に染まり、テスカトリポカが奥を突くたびに甘い悲鳴を上げた。それに、ぎゅっと根元を締め付ける動きはテスカトリポカの予想以上に悦かった。
こんなことなら、もっと早く手を出していても良かったんじゃないかと思っていると、急に黒い影が頭上を覆った。それはちょうどデイビットの快楽が最も極まった頃合いだろうか。にゅるりと現れたそれはテスカトリポカの方へと視線――視線というのか?――を向ける。
「アッ……テスカァッ……!」
「っ、デイビット、アレは、オマエのか?」
「ふぇ……?」
デイビットは、もう気持ち良くて身体に殆ど力が入らないような、溶けてしまいそうな吐息を零して、頭上を見た。
「アンッ……」
「アレは、オマエのだろう?」
尋ねると、デイビットは頷いた。
デイビットの身体を護る影――というのかどうか、テスカトリポカにもよく分からない。少なくともデイビットの何かに呼応して、外宇宙からやってくる。人理の裏側の影のような存在。それは、デイビットへの、敵対行動によって発動するようではあるが――。
「アンッ、テスカッ」
(まさか挿入がデイビットに対する敵性行動だと勘違いされているのか?)
デイビットは甘い悲鳴を漏らすだけだ。何かが蠢いている。恐らくデイビットの意思とは別に。
宿主、なのかどうか、とにかくデイビット・ゼム・ヴォイドという男のことはテスカトリポカの認識の範囲外のことなので、よく分からないのだが、とりあえずその身体への侵略行動である、と言われればそのとおりであるようにも思うし、そうであれば、それを護ろうとする意志が範囲外から発生するのかも知れない。いや、そういう意志があるのかもテスカトリポカにはやはり分からないのだが……。
とにかくよく分からないが、ソレから攻撃を受けたので、テスカトリポカはデイビットを抱えたまま、避けた。
「ひゃあんっ!」
「……っ、デイビット、オマエ、アレをどうにか出来るんじゃないのか?」
「な、なに……ッ!」
「オマエを護ってる何かだ」
「やんっ、突かないで……ッ」
「デイビット」
「突かれてると、何も、わかんな……ッ」
デイビットが甘ったるい悲鳴のようなことを言ったので、テスカトリポカは驚いた。
「何だ、オマエ、そんなカワイイことが言えるんじゃないか……」
「やぁんっ!」
こちらを向かせて身体を抱き上げると、あまりにも人間離れした動きにデイビットは振り回されて、びくびくと身体を震わせた。そのまま跳躍して影の攻撃を避ける。
「……ッ、アッ、挿入ったまま……!」
「ちょうどいいハンデだろうが、この程度」
血が沸騰してきた。テスカトリポカは戦を司る神であり、自らが斧を振るうのも、銃弾を放つのも好んでいる。好戦的だ。戦っていれば興奮する。その興奮も、常ならば別の興奮とは違うのだろうが――。
「やッ、おっきくなった……!」
「滾ってきたな。とっとと倒して再開するぞ、デイビット!」
「アンッ……それより、ナカ、抜いてッ……」
「よく憶えておけ、外宇宙の影。オマエたちの敵はテスカトリポカではないということをな!」
「――アァッ!」
テスカトリポカの戦闘スキルはただのサーヴァントを凌駕している。どういう状態であっても、敵対するモノに対して後れを取ることはない。
後で、「幾ら何でも滅茶苦茶すぎる」とデイビットは批難したが、ともあれテスカトリポカは無事に自分への攻撃者を撃退し――その血の滾るままに性欲をぶつけたので、デイビットは翌日にはすっかり動けなくなって、ぐったりと毛布に包まっているばかりだった。
「……魔力も尽きてる気がする」
「だから言っただろう、効率がいいんだよ」
「良くない。オレが動けない」
「双方の効率とは言っていないな」
毛布から出している頭をくしゃりと撫ぜると、デイビットは黙っていた。
「そっちも抜いてやったんだから、溜まっているものも出せてスッキリしただろう? こういう発散の仕方も悪くないというものだ」
「よく分からない。……そんなに憶えてない」
「全部じゃなく?」
「おまえが滅茶苦茶したことは後で批難しようと思って憶えてた」
「他には?」
デイビットはまた黙った。彼は何を憶えているのだろうか、とテスカトリポカは考える。甘い嬌声。火照る身体。震える指先。腹の重み。口吻。テスカトリポカは全てを憶えていて、デイビットは大概のことを忘れているのだろう。
何とも惜しいものだ、と感じた。
「デイビット」
掌で頬を撫でると、デイビットは特に何も言わずにされるままだった。
「またこういう方法を取ってもいいだろう?」
「……必要性があれば」
テスカトリポカは返答に満足して笑った。必要性なんてものは幾らでも作れる。
自分も存外この男のことを気に入っているものだな、と自覚した。自己を人間だと正しく認識することすら出来ないこの男のことを。
だが、人間だろうがそうでなかろうが、何だっていい。
(オレの――優秀な戦士だからな)
そろそろ魔力供給セッを書かないと死ぬぜ!
ブログでもよく書いてる気がするんですが、Fateジャンルで魔力供給を使わないのは罪悪みたいなものですよね。ミクトランifルートのことをまだ諦めてないのであった。
途中で滅茶苦茶してるのは某まゆ先生イメージだしやりたい放題である。
タイトルは「正しい魔力供給方法」みたいな意味で付けました。