先輩と七夕

 ――七夕と言えば七夕ゼリーだ!

「ってオレは思うんだけどね」
「そうなのか。オレは初めて聞いたよ」

 大学の先輩のデイビットは、金色の髪に薄い色の瞳という見た目どおり、日本生まれの人ではない。けれど日本語も英語もペラペラで、出身はアメリカの方らしい。そうなると、小学校の頃に給食のデザートとして七夕に出てきた七夕ゼリーは知らないのだろう。それはソーダ色のゼリーに星の形の果実が入っていて、七夕らしいデザートなのだ。

「ってワケで、先輩も食べてみてよ」

 はい、と藤丸が蓋の付いたゼリーカップを手渡すと、デイビットは、あまり表情を変えることはないが、心持ち不思議そうにそれを受け取った。

「学校給食のデザートだと言っていたが、どうして持ってるんだ?」
「楽天で売ってたんだ。懐かしくなって買ったんだけど、箱でしか売ってなくて」

 語尾に笑う、という一文字を付ける感じで、藤丸は笑いながら言った。ネット通販はかなり便利で、ついポチッと購入ボタンを押してしまうが、3ダースを越える数の七夕ゼリーが箱に詰まっているのを見て、流石に、藤丸も反省はした。というか、普通に家の冷凍庫に入る量でなかったので、すぐに幼馴染にもたくさんあげたし、友人たちにも配って回った。
 デイビットに渡したのも、その一環だ。ちゃんと保冷剤を付けて、保冷袋にも入れてある。
 七夕は過ぎてしまったが、デイビットは受け取ったゼリーを一度見て、ありがとうと頷いてくれた。

「二つあるんだな」
「うん。先輩の恋人と食べてよ。手塚さん、だよね?」
「分かった。ありがとう」

 デイビットは、日本の文化と風習を理解しているので、一々七夕について説明をする必要はなかった。喋っていると、生まれた国が異なっているとは藤丸には信じられないほどだ。

「先輩は――、織姫と彦星みたいにされちゃったらどうする?」
「どういう話だ?」
「恋人と、一年に一回しか会えなくなったら、ってコトなんだけど」

 ふと口にして、七夕の話題なら、短冊に書く願いは何か、とかの方が良かったかも知れない、と藤丸は思ったが、口にした言葉はもう取り消せない。
 彼の恋人を見て、順当だとか、意外だとか、勝手にそういう感想を抱いてはいないのだが、どこかで、どういうふうな恋人同士なんだろうかと、少し下世話だけれども興味を持ってしまう。
 デイビットは一瞬だけ考えたように動きを止めたが、すぐに、そういうことはないと思う、と言った。

「――アイツは神様だから」
「へ?」
「だから、川で隔てられたって、多分跳んでくるよ。橋を架けるかも知れない。そんなことじゃ、障害にもならないんだ」

 くすりとデイビットは笑ったようだった。
 ――また、冗談を言っているのだろうか?
 そんなふうには聞こえない。まるで本当に、彼の恋人は神様であるかのようだ。

「ゼリーをありがとう。一緒に食べるよ。おまえの話も、アイツに教えておく」

 そう言ってデイビットは食堂の席を立った。
 デイビットは、独特の空気感を持つ人だ。変わっているというか、少々、人間離れしたような雰囲気を纏っている。とても達観していて、百年先の未来が見えると言っても驚かないし、もしかすると、百年先の未来から来たのかも知れないし。
 人はそれを、『不思議ちゃん』みたいに言うけれど。それも、的外れ、という感じでは確かにないと思う。不思議な人、なのだ。

(本当に神様だったりして)

 先輩ならあり得そう! と藤丸は思ったが、脳内でペペロンチーノが、「神って何よ!」と悲鳴を上げていた。


デイビットくんて知らない人が見たら不思議ちゃん要素あるよね……!? みたいな。
普通に(?)カルデアで聞くver.なら、しれっと「アイツが川を隔てた程度でどうにかなると思うか?」と言ってると思う。

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